脳梗塞鑑別の頭部MRI、胆道評価のMRCPなど、日常診療でMRIをオーダーする機会がありますよね。
「MRIは難しくてなんとなく苦手意識がある」
「MRIについて学びたいけど、時間がない」
そんな先生方のために、放射線科医にとっては当たり前だけど、非放射線科医には意外と知られておらず、かつ臨床的に有用な情報を3つ厳選してまとめました。
なお、「MRI撮像前には体内金属類のチェックが必要」といった基本的すぎる知識や、「MRI撮像の詳細な原理」といった専門的すぎる知識は割愛しています。
いずれも、日常診療で遭遇する場面が多いシチュエーションとともにご紹介しておりますので、ぜひとも最後までお付き合いください!
① モダリティとシーケンス
放射線技師:「先生、ルーチンは撮ったんですけど、他に必要なシーケンスはありますか?」
非放射線科医:「しーけんす・・・?」
知っておきたい用語に「モダリティ」と「シーケンス」があります。
モダリティとは、医療画像を取得するための手段や装置のことです。具体的には、CT、MRI、超音波、などが該当します。この用語は、知っている先生方も多いと思います。
一方、シーケンスとは、MRIにおける撮像法のことです。具体的には、T1強調画像、T2強調画像、拡散強調画像などが該当します。「T1強調像、T2強調像、とか言われたらわかるけど、それらを『シーケンス』と呼ぶことは知らなかった」という先生方も多いのではないでしょうか?
以上を踏まえて、モダリティ、シーケンスという用語を正しく使うと、「MRIというモダリティの中に、T1強調画像などのシーケンスがある」という表現になります。
頭部MRIでよく用いられるシーケンスには以下のようなものがあります。
ルーチンで撮像されることが多いシーケンス
- 拡散強調像
- FLAIR
- T2強調像
- T1強調像
- MRA
必要に応じて追加されるシーケンス
- T2*WI:出血の検出に有用
- BPAS:椎骨脳底動脈解離の診断に有用
- TrueFISP:高分解能撮像、小脳橋角部や血管の詳細な評価に有用
多くの施設では、「脳梗塞プロトコル」などの特定のシーケンスの詰め合わせパッケージが用意されており、症例ごとにその他の必要なシーケンスが追加されます。
放射線科医がいない時間帯や、そもそも放射線科医がいない施設では、放射線技師から依頼医に、必要なシーケンスについて質問されることがあります。
そんなときは、患者さんの状態や検査目的にあわせて、技師さんと話し合いながら必要なシーケンスを決定するといいです。少なくとも、「しーけんす・・・?」とならないように、「シーケンス」という用語の意味は押さえておきましょう!
② 造影CT撮影後の同日MRI撮像は避ける
非放射線科医:「体幹部の評価のために造影CTを撮ったはいいけど、意識障害もあるなあ。脳梗塞も除外しておきたいし、頭部MRIを撮るぞ!」
翌日の読影レポート:「造影CT後の画像のため詳細な評価は困難です。」
非放射線科医:「・・・。」
造影CTで使用されるヨード造影剤は、T1強調像で高信号になるなど、MRIの信号に影響を及ぼします。そのため、ヨード造影剤が体内に残っている状態でMRIを撮像すると、良質な画像が得られないばかりか、誤診につながります。
具体的には、以下のいずれかが推奨されます。
- MRI撮像後に造影CTを撮影する
- 造影CT撮影から24時間以上あけてMRIを撮像する
やむを得ず造影CT撮影後に同日MRIを撮像する場合は、検査目的を明確にし、造影剤による信号変化の影響を加味して読影しましょう。
③ 脳卒中疑いの頭部画像検査では、MRIの前にCTを先に撮影する
非放射線科医:「脳梗塞が疑わしいから、頭部CTはすっ飛ばして、いきなりMRIを撮るぞ!」
(MRI撮影後)
非放射線科医:「うーん・・・。脳梗塞はなさそうだけど、よくわからないな・・・。やっぱりCTも撮ろうかな。」
(CT撮影後)
非放射線科医:「出血じゃん・・・。」
「脳梗塞を見るにはMRIが一番」という考えから、頭部CTを省略する先生をしばしば見かけます。
一般に、脳梗塞と脳出血を画像検査前に見分けるのは困難です。
MRIを先行すると、もし脳出血であった場合に、
- 脳出血のMRI診断は経験により診断精度に差があり、見落としや誤診が多い
- CTであれば数分で診断できるのに、MRIを先行したために診断が数十分遅れる
という危険性をはらんでいます。脳梗塞であれば大きな問題はないでしょう。
CTを先行すると、脳出血であれば診断はスムーズです。また、脳梗塞であった場合にも、
- early CT signにより脳梗塞と診断できる
- CTで脳出血を除外できた時点で、脳神経内科にコンサルトしたり、高次医療機関に搬送したりする
といったように、結果的に治療開始が早まる可能性があります。これらは、頭部CTを省略することにより得られる数分という時間よりも大きなメリットだと思います。
まとめると、以下のようになります。
CT先行 | MRI先行 | |
脳出血 | ⚪︎速やかに診断できる | ×経験により診断精度に差がある ×CT先行より診断が数十分遅れる |
脳梗塞 | ⚪︎early CT signがあれば速やかに診断できる ⚪︎脳出血を除外できる △MRI先行より診断が数分遅れる | ⚪︎診断できる |
以上から、よほどMRI読影に自信がない限り、頭部CTを省略していきなり頭部MRIを撮像することはお勧めしません。
まとめ
まとめると、以下のようになります。
① モダリティとシーケンス
- モダリティ:医療画像を取得するための手段や装置(例:CT、MRI、超音波など)
- シーケンス:MRIにおける撮像法(例:T1WI、T2WI、拡散強調像など)
⇨ 「シーケンス」という用語を理解して、放射線技師と適切なMRI検査を組み立てる
② 造影CT撮影後の同日MRI撮像は避ける
- 造影CTで使用されるヨード造影剤はMRIの信号に影響を及ぼす
- 良質な画像が得られないばかりか、誤診につながる
⇨ MRI→造影CTの順に撮影する、または、造影CTから24時間以上あけてMRIを撮像する
③ 脳卒中疑いの頭部画像検査では、MRIの前にCTを先に撮影する
- 脳出血と脳梗塞を頭部画像検査前に見分けるのは困難
- 脳出血、脳梗塞いずれの場合でも、CT先行のメリットが大きい
⇨ よほどMRI読影に自信がない限り、CTを先に撮影する
さいごに
いかがでしょうか。
すべて知っていたという先生はかなりMRIリテラシーが高いです。はじめて知ったという先生も、ぜひこの機会に覚えてください(わたしも、放射線科に入局してから知りました・・・)。
MRIは難しい原理から理解しようとしてつまずくケースが多いです。まずは実践的な内容から触れて、興味を持ったら詳細な原理や各シーケンスについて勉強してみるのもいいと思います。
さいごまでお付き合いいただき、ありがとうございました!